こんにちは。
かんてい局春日井店です!!
本日は前回ご紹介した、ROLEX【ロレックス】の“シードゥエラー”にある機能
『エスケープガスバルブ』を少しご紹介させて頂きましたが、
ヘリウムエスケープバルブって何?
ヘリウムエスケープバルブとは、その名の通り”時計に入り込んだヘリウムを
時計の外に逃がす”仕組みのことです。
この機構は高い防水性を誇るダイバーズウォッチに搭載されおり、
プロダイバーの証として親しまれてきました。
ただ、近年は耐衝撃性・視認性にも優れたダイバーズウォッチをダイバーではない方が
選択するケースが増えており、「ヘリウムエスケープバルブ」がどんなものなのか
分からない方も多いです。
①潜水の種類
そもそも、ヘリウムがなぜ時計に入り込むのか。
また、どんな状況でヘリウムが入り込んでしまうのかについて
まずは潜水の種類からご紹介したいと思います。
潜水の種類は使用する呼吸ガスの違いや潜水方式によって様々な分類方法がありますが、
時計の防水性から分類すると下記のようになります。
スキンダイビング
空気ボンベを使用しない潜水をスキンダイビングと呼びます。
これに耐えうる時計が「日常生活用強化防水」と呼ばれる10気圧・20気圧防水の時計です。
スキューバ潜水
空気ボンベを使用するスキューバダイビングなどです。
こちらの潜水に対応する時計は「一種潜水時計」と呼ばれ、水深100~200mまでの耐圧性と長時間潜水に耐えられます。
飽和潜水
プロの潜水士が行う深海への潜水です。
これに耐えうる時計は「二種潜水時計」と呼ばれ、潜水時間、減圧時間を測定するのに必要な逆回転防止機構付きベゼルやヘリウム対策の機構を持っています。
ヘリウムエスケープバルブが活躍するのはこちらの潜水になります。
②飽和潜水とは
飽和潜水とは水深100mを超える「深海への潜水」で行われる潜水方式のことで、
体を深海の圧力に耐えられるように慣らしてから潜水を行う技術のことをいいます。
人の体の中にはいろいろなガスが溶け込んでいるため、
潜水をすると高い水圧が体に掛かります。(水圧は10m潜るごとに1気圧大きくなります。)
この状態になると地上にいる時よりも多くのガスが体に溶け込むのです。
逆に浮上する時には水圧が小さくなっていくので体に溶け込んだガスは
血管などに排出されて体の外に出ていきます。
しかし体調が悪かったり、深海から海面まで急激に浮上してしまうと
血管中に溶けきれなくなったガスが気泡となって現れ、
血栓となって血管を破いてしまうことがあります。
加えて、深海に潜れば潜るほどこのリスクが増えることも覚えておかなければなりません。
ですが、体に溶け込めるガスの量には限りがありますので、
あらかじめ地上で加圧して体に最大量までガスを取り込ませておけば(飽和状態にしておけば)
安全性も効率性も高まります。
この原理を用いた潜水方法が飽和潜水というわけです。
③なぜヘリウムを使用するのか
深く潜るにつれ、呼吸ガスの圧力は大きくなります。
それに伴い空気の8割を占める窒素の圧力も大きくなるのですが、
一般的に深度40m以上になると窒素は麻酔作用を引き起こします。
これを「窒素酔い」と呼び、お酒に酔ったような状態になります。
そうなると判断力が著しく低下したり方向感覚を失うといった症状がおこり、極めて危険です。
そのため深く潜る際には窒素に替わる気体を混合させたガスを使用しなければなりません。
そこで使われるのがヘリウムガス。ヘリウムガスには下記のような利点があります。
1.高い圧力でも麻酔作用を起こすことがない
2.体内に溶け込む量が少ない
3.体内から排出される速度が大きい
4.長時間潜水では空気の場合より減圧時間が短く済む
5.空気抵抗が少ない
高価であったり聞き取りづらい声になったりといった欠点はあるものの、
安全性が高いので酸素中毒を引き起こさないよう配合させて使用します。
④ヘリウムエスケープバルブがなかったら
飽和状態まで潜水すると浮上する時にも一気に浮上せず、
減圧チャンバーという容器に入って長い時間を掛けて体に溶け込んだ
ガスを排出しなければなりません。
ヘリウムはとても小さい分子ですので作業中や減圧チャンバーに入っているときに
隙間から時計の内部に入りこんでしまいます。
高圧状態で入り込んでいるのでこの時のヘリウムはとても高圧です。
それが浮上していくにつれて周りの気圧が下がっていくと時計の中の気圧が
外よりも大きくなってしまいます。
この状態に時計が耐えられず、破裂してしまうので、
深く潜る際には入り込んだヘリウムを外に逃がす仕組みが必要になります。
その為に作られたのがヘリウムエスケープバルブです。
時計が破裂してしまうとその破片等でダイバーが危険にさらされてしまいます。
ヘリウムエスケープバルブは深海に潜るダイバーを守るために考えられた
仕組みといえるでしょう。
⑤代表搭載モデル
ヘリウムエスケープバルブが搭載された主なモデルをご紹介します。
ロレックス シードゥエラー・ディープシー
1960年代にサブマリーナRef.5513を着用して飽和潜水の作業をしていたダイバーが、
浮上時に時計の内圧が大きくなってしまったことによるガラス破損事故が起こりました。
ロレックスは2度とそのようなことを起こさないために、
フランスの潜水調査会社であるコメックス社の協力のもと、
ヘリウムガスを逃がすバルブをケースに設けることを決定します。
そして完成したのが、初めてエスケープバブルを搭載したモデル”Ref.5514″。
このモデルはRef.5513をベースにエスケープバルブを装備した特殊設計がなされたモデルで、
プロダイバーの為に作られました。
それと並行して一般向けにも「シードゥエラー」と命名された610mの防水性を有した
Ref.1665が発表されます。
これが現在のシードゥエラーの源流となりました。
9時方向に付けられたバルブは時計の中と外の圧力差が3~5バールに達すると自動的に作動してヘリウムを外に排出します。
オメガ シーマスター
シーマスターはオメガ社が第二次世界大戦中にイギリス海軍の依頼によって開発した
「裏蓋がねじ込み式のダイバーズウォッチ」をルーツとします。
その歴史的ダイバーズモデルを市販用に改良されたのが現在の「シーマスター」です。
このモデルは世界的なダイバーズウォッチの傑作と呼ばれ、
世界中の時計ファンに熱い支持を受けています。
シーマスターのヘリウムエスケープバルブは10時方向についているリューズを緩めると、
時計の内側の圧力が周囲の圧力よりも高くなったときに
パッキンが押されてガスが逃げるシステムです。
また、一旦圧力が解放されるとスプリングによりパッキンは元の位置に戻り、
この動作は圧力が低減される過程で自動的に数回繰り返されます。
使用方法としては大気圧に達したらエスケープバルブのリューズをねじ込めばOKです。
バルブのリューズをねじ込み忘れても防水性は50m(5気圧)まで保たれますが、
完全な防水性を保つためにもねじ込むのを忘れないようにしましょう!!
その他のメーカーのヘリウムガス対策
「ヘリウムを逃がす」という機構以外に、
SEIKOのマリーンマスター はヘリウムを時計に侵入させない特殊なパッキンを採用しています。
また、IWCは時計内のヘリウムガスの圧力程度では損壊しない極めて丈夫なケースと
風防を採用しており、各社によってヘリウム対策への仕様は様々です。